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The Lieblings "Take Us To Your Leader"

2013 (GAEA/RIMEOUT) ¥2.200

 フィンランドからド級の新人パワーポップ・アーティストが登場した!
 90年代の米国のパワーポップ・アーティストたち、The PosiesだったりVelvet CrushだったりMathew Sweetだったり…他にもたくさん、僕達の琴線に触れて、いや震わせてきたアーティストたちの優しく、しかしどこかで傷口の癒えていない心の機微を抜群のポップメロディで届けてきてくれた歴代のアーティストたちのエッセンスを存分に吸い込んだ上で、その脈々と続くパワーポップ・マインドをThe Pains of Being Pure at HeartやRingo Deathstarrのようなシューゲイズ・リヴァイヴァルのアーティストにも共振するほどの轟音でコーティングする、まさにパワーポップ・ミーツ・シューゲイザー、アーティストがこのThe Lieblingsだ。

 先にも挙げたように、往年のパワーポップの系譜を忠実になぞりながら、シューゲイザーのエッセンスまでをも吸収して鳴らす、というのは、言葉にすると簡単だけれど、実際に体現するのは並大抵のことではない。ともすれば、轟音の中で泣きっ面を晒した俯き野郎たちの自己憐憫に陥ってしまいそうなコンセプトを、彼らLieblingsは、歴代の先人たちの音楽性だけでなく姿勢までをもリスペクトしながら、「今の青さ」を鳴らしきることで、極上の彩りをもって届けてくれる。

ちょいキモなジャケットから分かる通り、彼らは男性3人と女性1人から構成されるバンドである。ちょいキモなジャケットに反して、アーティスト写真はどれも北欧的なスタイリッシュでクールな一面を覗かせてくれる。
フィンランドと言えば、パワーポップはもちろん、インディー・ミュージックに関して言えば、同じ北欧諸国のデンマークやスウェーデンに比べると、あまり多くのアーティストを輩出している感は薄いが、一昨年、2011年には、北欧からやってきたThe Drums(あるいはReal Estate)といった趣のあるサーフィン・ポップ・バンド、French Filmsが登場したのが記憶に新しい。彼らLieblingsもそんな期待のフィンランド・インディーのかつての新人、French Filmsと関係があり、結成してすぐに、その卓越されたメロディセンスを買われて、多くのインディー・レーベルから声がかかって、レーベルどうしの争奪戦の結果、French Filmsの在籍するGaeaというフィンランドのレーベルと契約を結ぶに至ったという。
男3×女1という構成もそうだが、彼らのサウンドを聴けば自ずと、以前にレビューさせていただいた、米国のインディー・ロック界のドン、Superchunkを思い出さずにはいられないだろう。シューゲイザーを感じる轟音のサウンドと言っても、彼らが鳴らすのは過度に内省的なものではなく、時にはパンキッシュなエネルギーさえ感じるものだ。アルバム全編を通して流れるエネルギッシュな轟音は、直感としてはDinosaur Jr.やSonic Youthのようなジャンクな米国のノイズに近い。とは言っても、メロウなギターが切ない曲「Waiting Room」や「She Motorway」などは、バンド構成も相まってThe Smashing Pumpkinsを思わせるサウンドを聴くこともできる。

ここまで、多くのアーティストを挙げてきたが、それは、あえて語弊を怖れずに言えば、かつて90年代の英米のオルタナティヴ・サウンドに心を奪われてきたリスナーの耳に必ず届くと半ば確信にも近い思いがあるからだ。もちろん、リアルタイムで90年代を体験してこなかった世代でも、彼らの魅力は抜群に伝わるだろう(実際、僕自身も90年代を後追いの形で追体験した世代だが、彼らのエッセンスは存分に響く)。いや、そんな矮小な枠組みさえ取っ払って、NirvanaやTeenage Fanclubといった名アーティスト、またはそんなアーティストの影響を受けてきた日本のアーティストを少しでも耳にしたことがあるならば、必ずや彼らの轟音の感傷が届くはずだ。

こうして書いてみると90年代やそれに準ずるサウンドを知らない方には伝わらないのではないか、と思われそうだが、そんな心配は、もちろんだが、ない。彼らは90年代に生きてセンチメンタルなノイズを鳴らしているのではなく、僕達と同じく2010年代を生きているのだ。ノスタルジックなサウンドを掘り返すだけでなく、現在2000年代半ばから興ってきたシューゲイザー・リヴァイヴァルやインディー・ロックからの影響も色濃く受けている。それこそ、リードトラックの「It’s All Gonna Fall」などは、exloversの感傷をTeenage Fanclubの美メロまでをも味方に付けた上にPosiesの美声とPainsのセクシャルな轟音で鳴らした、そんな印象さえ受ける。

 彼らは90年代のパワーポップの魅力を存分に再燃させながら、それだけでなく独自のシューゲイズとの折衷法で現在のインディー・ロックシーンに素晴らしい一味を付け加えてくれることだろう。

90’sパワーポップ、オルタナ、シューゲイズにシンパシーを感じるリスナーは彼らから、また再びVelvet CrushやPosies、Lemonheadsなんかに思いを馳せるのもよし、彼らから90’sパワーポップや現代のインディー・ロックシーンを辿るのもよし。
素晴らしいバックグラウンドをもっているアーティストは素晴らしい音楽への架け橋にもなる。

 さあ彼らのビターでセンチメンタルでエネルギッシュな轟音のポップメロディにのって、今昔を巡るパワーポップの旅に出ようではないか。


<青野 圭祐>



The Lieblings - Take us to Your Leader

<トラックリスト>

01. It's All Gonna Fall
02. Girl Drummer U.S.A
03. Romance Kills
04. Fall in Love Anew
05. Waiting Room
06. She Motorway
07. Thursday
08. Mexico
09. One Two Three
10. Right for You
11. Bed Bugs Bite
12. MLB *­


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