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大石昌良 “マジカルミュージックツアー”

2013(クライムエンタテインメント) ¥2,800(taxin)

 近年、大石昌良の快進撃が目覚ましい。
 一昨年の2011年は、彼がフロントマンを担っていた、ゼロ年代の邦楽ギターポップの良心とも言えるバンド、Sound Scheduleを5年ぶりに期間限定で再結成(期間限定とは言っても後に書く通り、それは短期間のプロジェクトではなく、今年2013年においても活動を継続している)し、Sound Scheduleにとって約6年ぶりのオリジナル・フルアルバム『PLACE』を発表。昨年の2012年は年始早々、ソロ・アーティストとして『31マイスクリーム』、Sound Scheduleとして『FUTURE』と2枚のリリースを発表するなど、バンドとソロを両立させて活動している。

そんな大石から、今年早くも『マジカルミュージックツアー』という、彼のソロ・アーティストとしては4枚目のフル・アルバムが届いていた。これが、また60年代から脈々と通じるパワーポップのエッセンスを存分に咀嚼したサウンドで、聴く度にリスナーの「歓喜の挨拶」が重なっていく様が目に浮かぶまでのサイケデリックながらもポップ、まるでThe Beatles『Revolver』のような昼の日差しの微睡みと夜の祝福の時を思わせ、しかもそれらをパワーポップというエンジンでフル回転させたようなパワフルなアルバムで痛快だ。
近年の大石の活動を振り返りながら今作、『マジカルミュージックツアー』を見ていこう。

 先述の通り、2011年に彼はSound Scheduleを5年ぶりに期間限定の再結成を発表し、『PLACE』をリリース。正直に言って、この再結成には驚いたリスナーも多かったのではないだろうか。僕もまた2006年の解散当時、彼らの1人のリスナーとして、その解散は悲観的なものではないとアナウンスされていたが、それだからこそ、むしろこれから大石昌良というフロントマンは、これからはソロ・アーティストとしてのキャリアを重ねていくのであって、よほどのことがない限り再結成などは望み辛いのではないかと懸念したものだった(少々個人的な話で恐縮だが、そんな懸念から当時、高校生だった僕は、その解散の報を聞いた時に、思わず学校の机に突っ伏して、彼らの代表曲の一つ、「ピーターパン・シンドローム」を聴かずにはいられなかったものだった。我ながら、文字通り「ピーターパン・シンドローム」丸出しの青臭い時だったことを覚えている:苦笑)。しかし、5年ぶりに彼らは新作の発表と同時に帰ってきた。当初は、新作をリリースしてツアーをしての再結成かとも思われていたが、期間限定とは言えど、散発的に活動を継続していくことも間もなく発表。今では彼らの公式HPの「Other」の項目の最新記事のライブレポートにおいて、「Sound Scheduleはもう2度と解散しないだろう…」とさえ書かれているくらいだ。そう、彼らは今でも彼ら自身の「ピーターパン・シンドローム」を手放していなかったのである。Sound Scheduleは昨年もアルバム、『FUTURE』をリリース。過去の彼らの曲をリアレンジしたものに加え、アルバムの1/3は新曲で構成される彼らの「今の感性」を改めて感じさせてくれる一枚であった。
 
 もちろん、大石の快進撃は、再びのSound Scheduleだけではなかった。
 上述の『31マイスクリーム』は、大石のソロ・アルバムとしては、3枚目のフル・アルバムであるが、それはコンセプトからして今までの彼自身を解体しつつ再構築することで、むしろ彼の昔からの持ち味の青臭い時間(褒め言葉です!)を歌いきるというスタイルを色濃く出しているようなアルバムである。
大石は、そのパワフルながらもセンチメンタルな歌声に乗る、耳がくすぐったくなるような青い歌詞でSound Schedule時代から、好評を受けてきたが、『31マイスクリーム』では、初めて、アルバムの大部分の曲の作詞に他のアーティストを招集して作られた。集まった作詞陣は、アンダーグラフの真戸原直人、キリンジの堀込高樹、大石にとっても大先輩にあたる大江千里などの豪華な面々であるが、最も興味深いことは何と言っても、片山恭一をも招集したことである。片山恭一はアーティストではなく、ゼロ年代の純愛ブームの旗手となった著書、『世界の中心で、愛をさけぶ』で有名な小説家である。
大石と片山が手を組むのは意外なことだろうか。これが実は、意外などころか、片山が作詞を手がけたアルバムのリード・トラック「海を見ていた 僕は」を聴くとむしろ必然的であるとさえ思えてくるのだ。大石と片山は、故郷が同じ、愛媛県の南予地方を代表する地方の小都市、宇和島市で、彼らは同じ高校の先輩・後輩の関係であるのだが、<<「海に行こう」/最近は忙しくて後回しの約束とか守る日だ>>なんて、これまたくすぐったくなるような「ストーリー」という曲から始まる『31マイスクリーム』の持つ、目を閉じればふと(宇和島市から一望できる)宇和海のような穏やかな田舎の海沿いの景色を思わせる感覚と、まさにマッチしているのだ。片山は『きみの知らないところで世界は動く』という、後の『世界の中心で、愛をさけぶ』を予感させつつも、『世界の〜』よりもさらにエッジが立ったビルドゥングス・ロマンとしての文体でティーン・エイジの切り裂かれるようなセンチメンタルな恋物語を宇和島の景色で描く作風の小説で著書デビューしている。『31マイスクリーム』は、その『きみの知らない〜』を彩るサウンド・トラックのようであり、逆に『きみの知らない〜』のセンチメンタルな感性をさらに増幅させた感覚を『31マイスクリーム』からも感じることもできる。何はともあれ、愛媛の地方都市で若くから養われてきた彼らの感性を、溢れ出る大石のポップセンスを感じる快作だ。こう片山との関係を書いていると、彼の著書や愛媛のことを知らないリスナーには、取っ付き辛い作風になっているように見えてしまうかも知れないが、実際はその逆で、むしろ今までのリスナーの見てきた、あるいは見た事もないような海や空の青い世界に連れて行ってくれるセンチメンタルでポップなアルバムが、大石の前作、『31マイスクリーム』であった。

 そんなキャリアを重ねた上で、リリースされたのが今作『マジカルミュージックツアー』だ。大石は前作では、イノセントな海沿いの景色へ招待してくれたが、今作では一転して、1曲目の「ピエロ」でいきなり歌いきっているように、道化のエンターテイナーとしてあなたをファンタジアの世界へ誘うことに徹している。それを示す様に、前作では多くのアーティストを招集して制作されたアルバムが、今作では完全セルフ・プロデュースに立ち返っている。
何と言っても、サーカスの中に入ったかのようなショータイムの始まりを思わせる軽快なホーン・セクションと大石のソウルフルな歌声が映える「ピエロ」と、チップチューンのようなコミカルなシンセサイザーの耳につくサウンドとそれに勝るとも劣らないマージービートを思わせるようなポップなバンドサウンドと大石のクラシカルなヴォーカリゼーションが鬩ぎ合うような2曲目の「Jump!!」で、一気にマジカルミュージックツアーの初日の朝を迎えているようなまでに快活だ。そんな起き抜けのリスナーを歓喜の目覚ましで鳴らすのが、アルバムのリード・トラック的な「おはよう」だ。Sound Scheduleから続く、溢れ出るようなメロディに包まれたパワフルなサウンドに大石のあたかもロック・ヒーロー然とした歌声で紡がれる言葉は、グローバリズムと世界中の紛争に対して警笛を鳴らすのではなく、それらをまとめあげる彼お得意の青くも優しいもの。アウトロでは、世界中のパワフルなアンサンブルの裏で世界中の言語で「おはよう」という声をサンプリングしたオケがどんどん重ねっていく歓喜に満ちたもの。
 大石は今作において、現実の憂鬱をシニシズムや内省の視点で診断するのではなく、むしろ彼の青さをファンタジアに昇華することで、優しく歌い上げることを試みているのだ。それは、続く「眠れぬ夜のブギーマンダンス」や「レディオフィッシュ」などでも同様だ。あまりにミステリアスでマジカルなのにも関わらず、聴けば聴くほど、今ここから逃避するための曲ではなく、むしろ現実を直視しているかのような感覚に陥るのはそのためだ。しかし、思い返してみれば、彼はSound Scheduleの頃から、現実の感傷を睥睨するのでなく、ファンタジックな言葉で綴ってきたし、何も突飛ではない。彼の主催する、マジカルミュージックツアーにいざ同行して、現実の逃げるのでなく外に出て行こうではないか。擦れ違う人々への合い言葉は、もちろん「おはよう」だ。
 
 さて、ここからは少し蛇足とも言える思いを少し書いてみたい。あえて語弊を怖れずに言えば、Sound Scheduleの頃に彼は、その卓越したパワーポップ・センス(それも90年代のパワーポップが全盛期の頃のものでなく、The Whoのような隆盛したパワーポップ勢の多くが影響を受けたと公言していたような、パワーポップのオリジネーターたちからの影響を感じさせた)と青い歌詞と技巧派なバンドアンサンブルとニヒルで大人びたスタイル、甘い歌声などで、GRAPEVINEやTRICERATOPSといったアーティストと類して語られることも多かったアーティストのように思う。GRAPEVINEもTRICERATOPSも、解散せずに今でも彼ら自身の方法論をもってシーンを突き進んでいっているが、Sound Scheduleは惜しまれながらも一旦は解散してしまった。これで、Sound Scheduleや大石昌良が顧みられることは、どうしても活動を続けていた時よりも少なくなったのは事実であろう。しかし、これまで書いてきた通り、Sound Scheduleは決して死んでいない。それどころか、大石のソロも含めて、方法論を再構築し、今までの彼にはなかったスタイルを築き上げている。
今こそ大石の快進撃は乗りに乗っていると僕は思う。大石の青い台詞の数々が、再び多くのリスナーの共通項になる日も決して遠くはないだろう。そんな日を待ちわびつつ、ひとまずは、今作『マジカルミュージックツアー』で、大石とともにファンタジックなリアリティをもった旅に同行しようではないか。<青野圭佑>


大石昌良『マジカルミュージックツアー』
<トラックリスト>
1. ピエロ
2. Jump!!
3. おはよう
4. 眠れぬ街のブギーマンダンス
5. レクチャーミー
6. 鍵っ子ノエル
7. レディオフィッシュ
8. ミスター
9. そして世界は君に恋をする
10. レッツシンガソング


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