Go

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MOTION CITY SOUNDTRACK "Go"

2012(SONY MUSIC JAPAN) ¥2,310(taxin)

メロディック・パンクを基軸にエモ、インディー・ロックといった要素を積極的に取り入れ、それらのシーンのファンからも注目を集めていたMotion City Soundtrack(以下、MCS)。もちろん、それはパワーポップ界隈からも同じだ。
普通のポップパンクのようなアップチューンのサウンドだけでなく、随所で効果的に鳴らされるシンセサイザーの音色はthat dog.やThe Rentalsを思わせるし、パワフルなカッコ良いバンドを目指しつつもどこかでオタクっぽいナードな凝り性を入れずにはいられないスタンス、そして日常の歓喜や哀愁、離別の切なさなどを歌うセンチメンタルな歌詞はWeezerをも思わせるのだ。

  前作にあたる4thアルバム『My Dinosaur Life』では、前々作の3rdアルバム『Even If It Kills Me』に比べると、メロディック・パンクによった怒りや哀しみといった貪欲な感情、そして日常のどこかしこにあるありふれた希望を歌うパワフルなアルバムで、歌詞やジャケットの隅々まで日本語を織り交ぜた、フロントマンのJustin Pierreの親日っぷりが炸裂したこともあり、ここ日本でも『Even If〜』の頃よりもさらに日本人ファンを獲得することに成功した

(続く)

 そして、満を持してリリースされるアルバムが今作、『Go』だ。真っ先にリード・トラックに配された「True Romance」を聴くと、今までよりも何倍もくすぐったくなるようなシンセの音色と緩急のついたリズミカルなバンドアンサンブルに少し驚かされる。それは続けて、同じくリード・トラックとなった「Timelines」を聴いても同様だ。どちらの曲も前作に比べると、かなりセンシティヴに優しく切なく聴こえるだろう。この2曲を聴いただけであれば、2ndアルバム『Commit This To Memory』に収録された「L.G. Fuad」のような繊細なメロディをJustinの美声で歌い上げるスタンスをレベルアップさせ押し進めているようにも感じるかも知れない。ある部分では、それは正解であるかも知れないが、だからといって、彼らのパワー感が薄れてしまったのではないか?といった心配はご無用である。アルバムの幕開けを飾る「Circuits And Wires」では彼らの強みのメロディック・パンク出自のアップチューンなメロディが広がっているのを感じることができるし、中盤の「The Coma Kid」ではうっすらとなるギターと泣きのシンセのイントロからどんどんブレイクを挟んで曲が展開していく様を楽しめるし、最終曲「Floating Down The River」では前作のパワフルなバンドアンサンブルとJustinの美声に彩られた秀逸なパワーポップを聴くことができる。

前編では優しく繊細な曲が多く、それがアルバムの曲順が進むにつれて自分自身を肯定して自立していく青年期の人間のようにパワフルに世界が開けていくようで痛快である。メロディック・パンクを基軸に今回はナイーヴなインディー・ロックに擦り寄った感覚を楽しめるアルバムであるが、相変わらずパワーポップ感も存分に健在なのが頼もしい。これはJustinの自分自身のダサさを開き直るのではなく、「ダサいまま誠実にたからかに鳴らしてやろう」といった意気込みを感じざるを得ない。

  そして彼らはASIAN KUNG-FU GENERATIONがプレゼントする邦楽洋楽混合フェス、NANO-MUGEN Fesの今年の2日連続出演アーティストとして来日が決定している。正直に言うと僕は、彼らの日本人にも馴染みやすいセンスを多く含んでいるサウンド、スタイルなどのポテンシャルから考えると、まだまだもっと多くの日本のリスナーに聴かれても良いのに、などと言った思いを持っていた。勿論、僕の周囲にも公私問わず、MCSを熱心に聴いている日本国内のファンはいるが、もっとポピュラリティをもっても良いのに、と感じていた。しかし、ここで邦楽を中心に聴いているリスナーも洋楽へ橋渡しするようなNANO-MUGEN Fesに出演することで、さらに幅広いリスナーの耳に届くことが期待される。何とも楽しみなところだ。

 カッコ良いパンクバンドを目指しながらも不器用な自分を叫ぶMCS。自分の情けなさを開き直りでなく真摯に鳴らすMCS。僕たちの日常の歓喜や憂愁を歌うMCS。それは僕たちの本当はちょっぴり冴えない日常とかぶるのではないだろうか。

 Motion City Soundtrack、直訳すると「動き行く街のサントラ」。そして今作のタイトルは『Go』、つまり「行け」。
この冴えなくも変わりゆく街を自分自身の力で歩み出せ、と打ち鳴らしているようだ。

  僕は一昨年、シアトルで生活しており、そこで2度ほどMCSのライヴを観る機会に恵まれ、終演後にJustinと話す機会にも恵まれた。そこでJustinは開口一番、「日本から観にきてくれてアリガトウゴザイマス!またヨロシクオネガイシマス!」と日本語を交えて挨拶してくれ、その後の会話の所々でも拙い日本語を披露してくれた。そんなJustinのことだ。今作が、さらに多くの日本のリスナーに聴かれ、満面の笑顔を浮かべている様を是非とも期待しところである。 keisuke Aono

Track Lisiting:
1. サーキッツ・アンド・ワイアーズ / Circuits and Wires
2. トゥルー・ロマンス / True Romance*ファースト・シングル
3. サン・オブ・ア・ガン / Son Of A Gun
4. タイムラインズ / Timelines*セカンド・シングル
5. エヴリワン・ウィル・ダイ / Everyone Will Die
6. ザ・コーマ・キッド / The Coma Kid
7. ボックスエルダー / Boxelder
8. ザ・ワースト・イズ・イェット・トゥ・カム / The Worst Is Yet To Come
9. バッド・アイディア / Bad Idea
10. ハッピー・アニヴァーサリー / Happy Anniversary
11. フローティング・ダウン・ザ・リヴァー / Floating Down the River
12. ボトム・フィーダー / Bottom Feeder*
13. ギヴ・アップ/ギヴ・イン / Give Up/Give In*
14. アルコール・アイズ / Alcohol Eyes*
*日本盤ボーナス・トラック

Produced by Ed Ackerson and Motion City Soundtrack
Engineered by Ed Ackerson
Assistant engineered by Peter Anderson
Recorded at Flowers Studio, Uptown Minneapolis, MN
Mixed by Chris Shaw, Mastered by Greg Clbi

MEMBER
ジェシィ・ジョンソン(moog, key)
トニー・サクストン(dr)
ジャスティン・ピエール(vo, g)
ジョシュア・ケイン(g)
マット・テイラー(b)

SITE
OFFICIAL: http://www.motioncitysoundtrack.com/ 
JAPAN OFFICIAL: http://www.sonymusic.co.jp/motioncitysoundtrack

LISTEN

BIOGRAPHY
ミネソタ州ミネアポリス(プリンスの出身地として有名)にて’97年に結成された5人組。メンバー・チェンジを経て’02年に現在のラインアップへ。自主制作されたデモが話題を呼び、レーベル争奪戦の末、アメリカ最大のインディー・レーベル<エピタフ>より’03年デビュー作『コミット・ディス・トゥ・メモリー』発売。翌年、ブリンク182のオープニング・アクトとして初来日を果たす。’06年には“エピタフ・ショーケース”と冠したマッチブック・ロマンスとのカップリングで再来日。’07年には米AP誌「最も期待できるアルバム」特集号で堂々の表紙を飾りフジロックFES初参戦ながらメイン・ステージに登場、3rdアルバム『イヴン・イフ・イット・キルズ・ミー』はビルボード・インディー・チャート初登場1位に輝き、その後’08年に行われたビート・クルセイダース&カルテルとのジャパン・ツアーでは全公演ソールド・アウト!’10年にリリースされた4thアルバム『マイ・ダイナソー・ライフ』ではコロンビアへのメジャー移籍を果たし、再びビート・クルセイダースとの来日共演を実現。
5作目となる今作は共同プロデュースに盟友エド・アッカーソン(Polara)を向かえ、古巣<エピタフ>からリリースされる。

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